Title : 『Antidote』
Artist : Chick Corea & The Spanish Heart Band
皆さんこんにちは。曽根麻央です。
今日はChick Coreaの2019年の作品、『Antidote』を紹介したいなと思います。
Chick Coreaはピアニストとしての活躍がフィーチャーされますが、「スペイン」などの代表曲が世界中で愛されているように作曲家としての功績も大きく、この作品『Antidote』ではその両サイドの彼のアーティスト性が見事にキャプチャーされています。
またこの作品はChick Coreaの以前よりの有名曲「Armando's Rhumba」もリメイクされていて、昔からのChick Coreaファンも嬉しい作品になっています。しかもフラメンコ奏者Paco de Lucíaの1990年のアルバムでもChick Coreが参加している「Zyryab」という曲もも新たなアレンジで演奏されていて胸熱なアルバムになっています。
このアルバムは全体を通してラテン音楽、フラメンコ音楽など多国籍なグルーヴを演奏しています。ベーシストCarlitos Del Puerto とドラマーMarcus Gilmore が中心となり、このヴァラエティ豊かなグルーヴを牽引しています。彼らが中心となって編成されたChick Coreaの8人編成ラテン・バンドは『The Spanish Heart Band』と名付けられていて、
Chick Corea - piano, keyboards, synthesizers
Carlitos Del Puerto - bass guitar
Marcus Gilmore - drums
のリズムセクションを中心に、Paco de Lucíaのバンドメンバーでもあった
Jorge Pardo - flute, saxophone
Niño Josele - guitar
がラテンとフラメンコのリズムをよりオーガニックなものに昇華して、
Michael Rodriguez - trumpet
Steve Davis - trombone
という現代のジャズシーンの最高峰のホーンセクションがインプロソロでも大活躍し、
Nino De Los Reyes - flamenco tap dance
がフラメンコのテイストをさらに与えてくれています。
さらにそこにRuben Bladesなどのゲストが参加していて、とても豪華な編成のアルバムです。
Ruben Bladesは日本では『プレデター2』に出演した俳優として知られていますが、実は素晴らしいシンガーソングライターで歌手でもあります。以前の記事でRubenのリーダー作品も紹介しています。
(https://www.jjazz.net/jjazznet_blog/2023/07/-monthly-disc-review20237-willie-colon-ruben-blades-siembra.php)
全体として特筆すべきはChick Coreaのピアノのタッチやソロのアイディアはもちろんですが、現在最高峰のドラマーMarcus Gilmore の色々な種類のリズムに対する理解の深さ、そしてグルーヴ、ドラムの音色の美しさが挙げられます。
タイトルソング「Antidote」は、Ruben BladesとChick Coreaの共作で、サルサの楽曲としての要素があるだけでなく、そこにChick Coreaの和音やホーンセクションのアレンジセンス、またフラメンコ・ルンバのテイストが加わり、このグループの方向性を示した一曲になています。
「Duende」は1982年のアルバム『Touchstone』からの再アレンジです。元のアレンジでは3分ほどの短いコンポジションですが、こちらではかなり拡大解釈され、3菅編成の美しさを聴くことが出来ます。Michael RodriguezとSteve Davis の二人の名手のソロがフィーチャーされています。
「The Yellow Nimbus, Pt. 1」はフラメンコのBuleríasというリズムが大枠になっているChick Coreaのオリジナル曲です。
それに続く「The Yellow Nimbus, Pt. 2」はフラメンコ・ルンバが基板になっている曲で、組曲になっています。
「My Spanish Heart」は1976年のChick Coreaの有名な代表作のアルバムタイトルで、オリジナルでは1分程度の短いピアノ曲ですが、このバージョンでは拡大解釈され、歌詞もついています。Ruben Bladesが歌っています。
「Armando's Rhumba」同じく1976年の『My Spanish Heart』に収録された20小節の有名な曲ですが、今回のアレンジではダイナミックなイントロイントロやシャウトコーラス、ホーンセクションのバックグラウンドがが追加されたりしていて、ファン必聴の一曲になっています。
メンバー全員をフィーチャーしていて、ジャム曲のような立ち位置になっています。
「Zyryab」は1990年のPaco de Lucíaのアルバムの代表曲ですが、Chick Coreaも参加していることで知られています。この『Antidote』ではChick Coreaが新しいセクションを追加し、より壮大な曲へと進化を遂げています。おそらくこのアルバムのハイライト的な曲だと思います。
「Pas de Deux」はストラヴィンスキーのコンポジションをChick CoreaとCarlitos Del Puerto のデュオで演奏していて、その次の曲の「Admiration」のイントロとして演奏されています。
「Admiration」はゆっくりなクンビア(コロンビアのリズム)とフラメンコ・ルンバが混ざったようなグルーヴの曲です。
ぜひこのアルバムを聴いてチック・コリアが思い描いたワールドミュージックを体感してみてください!
文:曽根麻央 Mao Soné
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![]() 曽根麻央 Mao Soné 曽根麻央は2018年にジャズの二刀流として、 2枚組CD『Infinite Creature』でメジャー・デビュー果たしたトランペッター、ピアニスト、作曲家。 幼少期よりピアノを、8歳でトランペットを始める。9歳で流山市周辺での音楽活動をスタートさせる。18歳で猪俣猛グループに参加し、同年バークリー音楽大学に全額奨学金を授与され渡米。2016年には同大学の修士課程の第1期生として首席(summa cum laude)で卒業。在学中にはタイガー大越、ショーン・ジョーンズ、ハル・クルック等に師事。グラミー賞受賞ピアニスト、ダニーロ・ペレスの設立した教育機関、グローバル・ジャズ・インスティチュートにも在籍し、ダニーロ・ペレス、ジョー・ロバーノ、ジョン・パティトゥッチ、テリ・リン・キャリントン等に師事、また共演。 曽根は国際的に権威ある機関より名誉ある賞を数々受賞している。 |