この Hank Mobleyの『Soul Station』には、気持ちがざわつくような「If I Should Lose You」、なんて優しくあたたかくも儚い気持ちにさせられる「Remember」などが入っています。
曲や演奏もめちゃくちゃかっこいいのですが、何といってもサックスの音色!これにやられました。柔らかくふわっとした音に纏っている・・・触れるような部分があって、その表面は少しチリチリとザラついていて・・そして音の核にはしっかり芯があって。
当時18.19歳ほどだったと思いますが、これまでに聴いてきたサックスの音色とは全く違っていて、なんていい音なんだろうとやられてしまったんです。
このアルバムでは他にも、美しいハーモニーの中をずっと疾走していくような「This I Dig Of You」や、マイナーブルースの「Dig Dis」。全部いいんですよね。
メンバーも素晴らしく、1960年当時の最強メンバーともいえる、ピアノは Wynton Kelly、ベースは Paul Chambers、ドラムは Art Blakey が参加しています。
テナーサックスの Hank Mobleyが、このスーパースター達を率いて皆とてもいい演奏をするんです。
このアルバムは全体を通してラテン音楽、フラメンコ音楽など多国籍なグルーヴを演奏しています。ベーシストCarlitos Del Puerto とドラマーMarcus Gilmore が中心となり、このヴァラエティ豊かなグルーヴを牽引しています。彼らが中心となって編成されたChick Coreaの8人編成ラテン・バンドは『The Spanish Heart Band』と名付けられていて、
Chick Corea - piano, keyboards, synthesizers
Carlitos Del Puerto - bass guitar
Marcus Gilmore - drums
「Duende」は1982年のアルバム『Touchstone』からの再アレンジです。元のアレンジでは3分ほどの短いコンポジションですが、こちらではかなり拡大解釈され、3菅編成の美しさを聴くことが出来ます。Michael RodriguezとSteve Davis の二人の名手のソロがフィーチャーされています。
「The Yellow Nimbus, Pt. 1」はフラメンコのBuleríasというリズムが大枠になっているChick Coreaのオリジナル曲です。
それに続く「The Yellow Nimbus, Pt. 2」はフラメンコ・ルンバが基板になっている曲で、組曲になっています。
「Zyryab」は1990年のPaco de Lucíaのアルバムの代表曲ですが、Chick Coreaも参加していることで知られています。この『Antidote』ではChick Coreaが新しいセクションを追加し、より壮大な曲へと進化を遂げています。おそらくこのアルバムのハイライト的な曲だと思います。
「Pas de Deux」はストラヴィンスキーのコンポジションをChick CoreaとCarlitos Del Puerto のデュオで演奏していて、その次の曲の「Admiration」のイントロとして演奏されています。
Title :『Antidote』
Artist : Chick Corea & The Spanish Heart Band
LABEL : Concord Jazz
発売年 : 2019年
【SONG LIST】
01. Antidote
02. Duende
03. The Yellow Nimbus - Part 1
04. The Yellow Nimbus - Part 2
05. Prelude to My Spanish Heart
06. My Spanish Heart
07. Armando's Rhumba
08. Desafinado
09. Zyryab
10. Pas De Deux
11. Admiration
Title : 『ROMBO』
Artist : Dos Orientales
LABEL : KAIYA PROJECT
RELEASE : 2025年5月15日
【SONG LIST】
01.Cabo Polonio
02.Dos Orillas
03.Os garçons
04.Metimpar
05.Dos Orientes
06.Torii
07.Que cosa eh!?
08.para Nico Mora
09.Cabaña de Kushiro
10.Ritmo
11.Milonga de Nagoya
12.Esa Tristeza
13.Fukuoka Waltz
14.Luces de Tokyo
今日は数あるトリスターノの作品の中でも『Live In Toronto 1952』というライブ版を取り上げてみようと思います。この作品は決して音質が良いわけでもなく、最初の曲は変なFade Inの仕方をしているにも関わらず、この時代のトリスターノの生きたエネルギーを体感することができる作品かなと思います。バンドとしてもクインテットの一体感が素晴らしく、全体のアンサンブルにも注目の作品です。
この『Live In Toronto 1952』はタイトルの通り1952年のアルバムです。1950年はマイルス・デイヴィスが『Birth of Cool』で複数の管楽器を用いたジャズで新たなジャズのサウンドの可能性を示した年でした。
1952年はチェット・ベイカーやジェリー・マリガンが2菅、ピアノレスの編成で『Gerry Mulligan Quartet Volume 1』などのアルバムを、のちのウェスト・コースト・サウンドを発信していた時代でもあります。こういった音楽はビ・バップに比べて野生的な個人個人の熱量ではなく、より計画されたアンサンブルから生まれる知的な熱量を感じます。
この1952年の時のトリスターノは間違えなくこれらの音楽の影響は受けていたor与えていたと思います。
このビ・バップからPOSTビ・バップ前期の時代に言えるのが、ドラムという楽器の使い方が他の楽器に比べて発展が大きく遅れていることです。ビ・バップは旋律楽器の革命でしたし、それ以降の音楽もマックス・ローチがリーダーで活躍し出すぐらいまではドラムはシンプルに4分音符を中心にベースと一緒にリズムキープの仕事をしているイメージです。ドラムが華々しく活躍したビ・バップ以前のビッグバンド時代や、マックス・ローチやアート・ブレイキーの登場からは考えられないことですが、ドラムがある意味主役ではなくなったジャズの歴史の中でも珍しい期間の音源かなと思います。
この『Live in Toronto 1952』でもドラムは基本的にリズムキープに徹していて、ほぼインタープレイというものをしません。しかしそれがこのアルバムのこの時代ならではの面白いところであり、そのドラムのあり方にしては考えられないレベルで発展した管楽器とピアノの旋律とハーモニー、そしてリズムを集中して音楽を聴くことができます。ある意味この時代ドラムが退化したのは音楽が発展する上で必然だったのかもしれませんね。
間違えて欲しくないのは時代のドラマーが下手だったとかそういうことを言っているのではありません。このレベルでリズムキープできるのは素晴らしいことですし、普通はここまで集中したシンプルな演奏は現代のドラマーにはできないでしょう。
メンバー
Lennie Tristano (p) Warns Marsh (ts) Lee Konitz (as) Peter Ind (b) Al Levitt (ds)
サックスの二人はトリスターノの音楽を一緒に作った二人と言って良いでしょう。トリスターノの作り出す複雑で難解なメロディーやハーモニーを正確に演奏し、このバンドのユニークなサウンドを明確なものにしています。
分かりやすいのは「317 East 32nd」は「East Of The Sun」というジャズスタンダードの替え歌になっています。最初のコーラスは「East Of The Sun」をトリスターノが演奏します。それでも半音ずらしたりしてかなり奇妙な「East Of The Sun」ですが、2コーラス目にはそれに続くようにcontrafactのメロディーが書かれています。これが「317 East 32nd」のメロディーになっています。トリスターノの書く旋律の面白さがわかる気がします。contrafactとは、以前の記事でも何回かお話ししましたがジャズの作曲のスタイルで、既存の楽曲のコード進行を用いながら自分なりの新しいメロディーを書き自らの作品とするスタイルのことです。